上達の近道

最初のころ、初めて術者になって美容外科の手術をすると戸惑うことがあります。

もちろん術者になるには、何件か助手をしたうえでさらに自分で解剖のおさらいをして文献も隅から隅まで読んで準備をしてからです。

それでも初めて術者として美容の手術(たとえば切開式重瞼術など)をするとなにがなんだかよくわからない、という状態になります。

実際の手術でみた術野の風景は、前回述べた「空間認識力」が十分に備わっていても解剖の通りにはなっていないことを知り頭の中が混乱します。実際の術野は解剖から想像される位置関係とはかなりずれているのです。

その原因にはいくつかありますが 一番大きなものに局所麻酔があります。局所麻酔の場合は麻酔の量、注入の深さなどがちがうと解剖も簡単に変わってしまいます。手術に慣れてくると局所麻酔を別のドクターに頼むことがありますが、美容外科では術者自ら麻酔をするほうが無難です。手術には術者の癖が出ることを以前申し上げましたが、局所麻酔にも同様のことがいえるからです。

次に大きな原因として、助手の牽引の仕方です。手術の多くは術者一人ではできません。必ず助手がいります。美容外科の場合、手術の器械を渡してもらうこと以外に、助手に傷を開いてもらっていなければなりません(医学的には術野の確保といいます)。

助手のうまい下手は別にして、普段と違う助手に傷を開いてもらうといつも見ている傷の風景と全く違うことがあります。ちょっとしたけん引の力の差やけん引のひっぱり具合で見れるものが見られなかったりします。

一番いい助手はその手術の経験豊富な術者にしてもらうことですが、そんな贅沢はまずできません。

結局、手術の上達の近道は術者自らが毎回同じ麻酔をしおなじ助手についてもらいながら同じ手術を何例か繰り返すことです。