麻酔薬の変遷

麻酔科についての続きです。

全身麻酔の手術のたびにお呼びするいろいろな麻酔科の先生とお話しをしていると、麻酔の進歩に驚かされます。

私の研修した全身麻酔は前回も書きましたように25年以上も前のものです。

麻酔技術の基本には大きな変化はないのですが、使用する麻酔の薬は今とは全く違うものになっています。

当時の麻酔薬の主流は「フローセン」という吸入麻酔薬でしたが、今、この薬を使用することは全くないようです。

このあとに「エトレン」になり「セボフルレン」(うちのクリニックで使用している薬です)という薬に替わり、いまはもうひとつ新しい麻酔薬が出てきているようです。

さらに最近はこの吸入麻酔薬による全身麻酔から、「アルチバ」という麻薬系の静脈麻酔による全身麻酔(麻酔のガスなどを使用しない)に主流が変わってきているようです。

このことについて麻酔科の先生にお伺いすると、この「アルチバ」による全身麻酔だと麻酔の深さの調節が容易で、手術中の患者さんの全身管理がとても楽だそうです。

たしかに私が研修した「フローセン」麻酔は、麻酔の調節が難しく、ある程度手術の流れを知って予想しながら先に先に調節していかないといけないものでした。

さらに、その先生が「フローセンで麻酔を上手にかけるところに職人芸的な見せどころがあったのに、今の薬は、研修医でも上手に麻酔をかけられるからつまらない」ともおっしゃっていました。

たとえて言うなら、フローセン麻酔はアナログ、アルチバ麻酔はデジタル、今の世の中の趨勢と同じ変化が麻酔にもみられるということでしょうか。

それでは患者さんにとっていいのはどちらの麻酔なのかと言えば、さきほどの麻酔科の先生は、「アルチバ」は術後の鎮痛作用がないのでかならずしもこちらがいいとはいえない、とのことでした。

また「アルチバ」は麻薬ですので管理が面倒であることを考えると、うちのクリニックでは暫くは「セボフルレン」がメインであることに変わりはなさそうです。