美容外科への道~その11 技と心の師

前回の続き

がんセンター勤務も1年が過ぎようとしたころ、「頭頸部再建」三昧の日々を送っていた中での出来事です。

ふとした機会に中京病院の形成外科部長の井沢洋平先生を訪れる機会がありました。

井沢先生は中京地区の形成外科のドンでした。やけどの治療では全国的に有名で、中京病院といえば形成外科、形成外科といえば中京病院というぐらい世間に広く知られていました。

私は再建外科ばかりの日々に少々迷いが生じていて、将来のことを井沢先生に相談に訪れたのです。

その時井沢先生は体調を崩されていて、中京病院に入院されていてちょうどお見舞いも兼ねた訪問になりました。

私は自分の心境を正直に井沢先生に話して、今後どうしたらいいのか迷っていることを話しました。

井沢先生は、その時に私に向って「迷っている時は、何がしたいかではなく、どんな患者さんを診たいか、どんな医者になりたいのか、をよく考えなさい。」とおっしゃいました。

その言葉は、医者になってがむしゃらに研修をこなしてきた私にとって、初めて医師とはどうあるべきかという問題を真剣に考える機会を与えてくれたのです。

がんセンターの2年間で、私は手術の技術の師である「松浦先生」と、医師の心構えの師である「井沢先生」に出会うことができました。私が1人前の医師になる礎を与えてくださったお二人の恩師に改めて感謝します。

お二人の師匠はすでに故人ですが、このあとお二人の最期に偶然に立ち会うことができたこともなにか運命めいたものを感じました。