ミューラー筋に注意!
美容外科医として切開式重瞼術を行うには、挙筋腱膜と瞼板、ミューラー筋の解剖学的位置関係の知識は絶対に必要です。
日頃、他院の重瞼手術の術後修正をしているとつくづくその必要性を感じます。
最近経験した、他院で行われた「部分切開」による重瞼術の修正について振り返って見ます。
主訴は広すぎる重瞼幅、重瞼ライン全体の食いこみ、睫毛外反、軽度眼瞼下垂(左≧右)の修正希望です(切開重瞼修正の黄金パターンです)。
まずおやっと思ったのが左側の局所麻酔を行なった時、いつもと変わらない深さに皮膚側から局所麻酔をしたのに麻酔液が瞼のうらから溢れてきた時でした。
なにかいつもとはちがう状況に少しとまどいながら手術をすすめていくと、徐々に全貌が明らかになってきました。
右側の腱膜は瞼板から完全に外れていて(ミューラー筋が完全にあらわになっていました)、この腱膜に皮膚が縫い付けてありその結果上記の症状が出ていたものと思われます。
これはこのブログに何度も書いてきた「よくあるパターン」ですので、腱膜の位置を正しい位置に戻し、これを瞼板に何箇所か縫いつければOKです。
敢えて言えば、ミューラー筋がほぼ全幅にわたってあらわになっているケースは今回が初めてで、少しおどろきました。
そのあと左側を見てみましたが、こちらも基本的には右と同じ状態でしたが、手術をすすめていくとわかったのですが、それはミューラー筋までその幅の3分の一ぐらいが横方向に切断されていたことです。
これで、局所麻酔をしたときに結膜側まで行ってしまった理由がわかりました。
通常、瞼は皮膚側から、皮膚→皮下組織→眼輪筋→隔膜前脂肪→隔膜→眼窩脂肪→挙筋腱膜→ミューラー筋→結膜まで7~8層もあるのですが、手術によって瞼の一部が皮膚→皮下組織→結膜になっていたためと思われます。
まさかそんなことは起こらないだろうと思われるかもしれませんが、実際に瞼の切開手術をしていて、腱膜の上なのか下なのかわからなくなることがあります。
初心者が腱膜の下に一旦入り込んでしまうと、そこにあるものが眼窩脂肪なのかミューラー筋なのか分からなくなり、ミューラー筋を切ってしまったのだと思います。
ミューラー筋はとても柔らかい筋肉で、腱膜に穴があくとそこからヘルニアのように飛び出してきて確かに眼窩脂肪と紛らわしいのです。
眼窩脂肪との簡単な見分け方は、色以外に患者さんの痛みです。ミューラー筋はとても痛いので、ちょっと触っただけでとても痛がります。それとミューラー筋をさわるととても出血が多くなります。
この患者さんにも同様のエピソードがありました。
この手術の手順としては何がともあれ腱膜を同定して(この患者さんの場合、腱膜が非常に短く切断されていて修復がとても難しかった・・・)なんとか無事終えることができました。
重瞼手術の修正で、前回の手術がとても痛くて術後長期間にわたって腫れたというエピソードがある場合は、ミューラー筋に手術が及んでいる可能性ありと疑うべきである、というのが今回の手術の教訓でした。