イリュージョンの世界
数年前の学会で、関西のレーザーで有名な先生が、美容皮膚科の世界には「イリュージョン」と「リアル」の二つがある、という趣旨のお話をされていました。
詳しい内容は忘れましたが、要はそのころ流行だった「光治療」を「レーザー治療」と対比して前者は「イリュージョン」の世界である、ということだったと記憶しています。
医学的にみるとそういった「光治療」には、いわゆる科学的なエビデンスに乏しく根本的なシミの治療とは言い難い、医学的にシミを消すのであればやはり「レーザー治療」が必要になってくる、という意見がある一方、患者さんの「うけ」がいい治療はダウンタイムの少ない光治療のほうに軍配があがる、という事実があったのです(今でも・・あります)。
これは何も美容医療に限ったことではありません。患者さんにとっていい医療と、我々が「すぐれている治療」が必ずしも一致するとは限らないのです。
私のような頭のかたい医師は、そのジレンマに対してなんとか自分を納得させるために、色々な理由を考えるわけです。
それは要するに「イリュージョン」の世界で、「リアル」な医療の世界とは異なった基準で患者さんに選ばれている、というように自身を納得させているわけです。
「・・医学的にはエビデンスに乏しくても患者さんにこれだけ支持される医療機器には医者にはわからない何らかの効果があるにちがいない・・・」と
ところがよく考えてみると、人類の発明の源は、すべてこの「イリュージョン」からスタートしているということに気づきます。
200年前に「空を飛べたらどれほどいいか・・」という考えがあったとしても、だれもそれが現実になるとは思わなかったであろうし(要するにイリュージョンだった)、それがなかったら今日の飛行機の目覚ましい発展はなかったわけです。
完璧な航空力学理論は、ライト兄弟の飛行機が飛んだ時代にすでにあったわけではないのです。
それを考えると「切らない・腫れないたるみ治療」は今はまだイリュージョンの世界から抜け出していないかもしれませんが、10~20年後にはそれが普通に「リアル」な世界の話になっているかもしれません。